東京高等裁判所 昭和24年(新を)378号 判決 1949年11月12日
被告人
佐藤勇
主文
原判決を破棄する。
本件を宇都宮地方裁判所に移送する。
理由
前略
論旨第一点について
原判決は証拠として「証人鈴木長一郞の当公廷における供述」を引用しているが原審公判調書を調べて見ると第一回公判において右人証を取調べる旨の決定があつたが第二回公判においては右鈴木が取調べられた旨の記載はなくつて証拠決定にない石川三郞なる者が取調べられた旨の記載があるしかしながら同公判調書の末尾に添附してある宣誓書によると石川三郞の宣誓書はなく鈴木長一郞の署名拇印ある宣誓書が存するところから見ると右調書に石川三郞と記載せられてあるのは鈴木長一郞の誤記であつたことが判る右は著しき誤記で甚だしき粗漑であつたとの非難は免れないが調書自体で誤記であることが判るので証人鈴木長一郞が取調べられなかつたものとなすことはできぬ論旨は理由がない。
論旨第二点について
原審第一回公判調書によると坂内政一郞の妻を証人として喚問する旨の決定がなされたが第二回公判調書によると坂内キクなるものが取調べられているけれども同人は坂内政一郞の妻ではなくその母だといふことになつている、若し坂内政一郞の妻は事件に関係なく事件に関係のあるのはその母であつた事か判り母を証人として喚問する意思ならば前決定を取消して改めて訴訟関係人の意見を聽いた上で母を証人として喚問する旨の決定をなしこれに基いて証人を尋問すべきものである原審のなしたところでは決定した妻の尋問を施行せず何等証拠決定をしなかつた母を突如として尋問したことになつて違法の措置と謂ふべきであるしかもこの証人の供述を罪証に供した原判決は破棄を免れない論旨は理由がある。
以下省略